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高松高等裁判所 昭和25年(ナ)1号 判決

原告 緒方隆雄

被告 徳島県選挙管理委員会

一、主  文

被告が原告提起の昭和二十五年九月七日執行徳島県美馬郡古宮村議会解散賛否投票の効力に関する訴願に対してなした訴願人の請求を棄却するとの裁決を取り消す。

徳島県美馬郡古宮村選挙管理委員会のなした昭和二十五年九月七日執行徳島県美馬郡古宮村議会解散賛否投票は無効とするとの決定を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は主文と同旨の判決を求めその請求の原因として原告は徳島県美馬郡古宮村議会議員の選挙有権者であるが同村議会の解散を請求するため昭和二十五年五月六日訴外阿部国春と共にその請求代表者となり古宮村選挙管理委員会(以下村委員会と略称する)に対しその請求の要旨その他必要事項を記載した解散請求書を添え同村議会解散請求代表者証明書の交付を申請したところ村委員会は即日原告に右証明書を交付し且つその旨告示したので原告等請求代表者は直ちに同村議会解散請求者署名簿に同村における選挙有権者の署名押印を求め右選挙有権者総数千九百七十名中八百三十四名の連署を得て同年六月三日右署名簿を村委員会に提出してこれに署名押印した者が同村の選挙人名簿に記載されている者なることの証明を求め村委員会からその旨の証明を得た上同日右署名簿及び証明書を添え村議会解散請求書を村委員会に提出した。そして同委員会は直ちに村議会解散請求代表者の住所氏名及び請求の要旨を告示し且つこれを公表し、その他法定の手続を経て同年九月七日右古宮村議会解散賛否の投票を執行しその開票の結果投票総数千百三十五票中有効投票千六十五票その内右議会の解散を可とする投票六百票これを否とする投票四百六十五票であり村委員会はその旨公表した、かくて右古宮村議会はその解散投票において過半数の同意があり地方自治法第七十八条により解散することになつた。然るところ同年九月二十日訴外柿本忠平より村委員会に対し右議会解散賛否投票の効力に関し解散請求者署名簿における連署者中に自署でないものがありこれを控除すれば法定数に達しないから無効であるとして異議の申立がありこれに対し村委員会はその異議を認容し同年九月二十八日右賛否投票は無効であると決定した、原告はこの決定を違法なりとして同年十月七日被告に対し訴願したところ被告は右確認済の解散請求者署名簿における連署者中自署でないもの三十八名存在しこれを控除すれば法定数に五名不足するから村委員会のした決定は正当であるとして訴願人の請求を棄却するとの裁決をしその裁決書は同年十一月三十日原告に交付された。

しかし本件争訟に関しては昭和二十五年五月四日法律第百四十三号地方自治法の一部を改正する法律(以下改正法と略称す)によつて処理さるべきものである而して改正法(第二百五十五条の二の法意は普通地方公共団体における直接請求の署名簿の効力や住民の賛否投票に関する効力を出来得る限り急速に確定して、これら普通公共団体の紛議を最小限度に抑制しようとの趣旨から審理秩序に厳格なる制限を加えたものであるから一旦終局的に解決された事項は特に再審理の保留されていない限り確定不動となるべきものであり且つ関係法文の解釈運用も亦この精神に適合せしめなければならない。従つて本件におけるが如く古宮村委員会が署名簿を調査照合してその法定数に達したることを確認した上村議会の解散賛否投票を施行するも猶何人よりもその署名簿の署名に関し異議の申立なくして投票の結果が実現した場合その結果に不服の余り遡つて署名簿の署名を批難攻撃するが如きは法の許さないところと信ずる。蓋し署名簿が確認せられたために投票の執行となつたのであるから審理段階の秩序上署名簿は公認性を持つているからである。或いは改正法の施行は本訴の係争事件に及ばないというかも知れないがその然らざることは同法附則第九項においてこの法律施行の際現に裁判所にかかつているものは同条(改正法第二百五十五条の二)の規定にかかわらずなお従前の例によるものと明記し改正法施行の際裁判所に現実にかかつていない以上やがてかかるべき過程に上つていても猶且つ改正法第二百五十五条の二を適用して従来訴願庁や裁判所において審理段階を混乱せしめていた弊害を除却することにしているのであり古宮村委員会が賛否の投票済なる段階を無視し投票の前段階たる署名簿の不備を理由として賛否投票を無効なりと決定したことは法を無視した違法の決定でありこれを踏襲した村委員会の決定を正当なりとした被告県委員会の裁決も亦違法たるを免れない。しかのみならず改正法第八十五条によつて準用せられる公職選挙法中普通地方公共団体の選挙に関する規定によるも議会解散賛否投票開始の基礎手続たる署名簿の不備を理由として全面的に投票無効を決定するが如きは法意に反するものというべきであるからこの点よりするも被告県委員会並びに村委員会のした裁決並びに決定は違法といわなければならない。よつてこれら裁決並びに決定の取消を求めるために本訴に及んだ次第であると陳述し

被告の答弁に対し改正法附則第十項の委任規定による昭和二十五年政令第百十九号附則第三項には昭和二十五年法律第百四十三号及びこの政令施行の際現にその手続を開始している直接請求については従前の例によると規定せられているけれどもそれは直接請求の手続並びにその執行についてのみ旧法によつて取扱わるべき法意であることは右改正法附則第十項の規定に徴して明瞭である。故に本件争訟については前記の如く改正法によつて処理さるべきであることは疑のないところであると述べた。

被告訴訟代理人は原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め答弁として原告主張事実中古宮村選挙有権者総数並びに同村選挙管理委員会において確認した署名簿の連署者の数及び署名簿に署名せる者はいずれも自由なる自署押印であるとの点は争う、その他の点は認める。古宮村の選挙有権者の総数は二千十二名であり村委員会において署名簿の署名者を選挙人名簿と照合した結果署名者中七百四名が選挙人名簿に記載されている者であるとの確認証明を与えたのである。また原告の訴願により被告が本件署名簿の署名の効力に関し審査した結果三十八名は自署でないことが明確になつたのでこれを無効とし当初の確認署名者約七百四名からこれを控除するときは六百六十六名となり法定数六百七十一名を欠くに至るのでこれに基いて執行された投票は無効なりと認め原告の訴願を棄却したのであつて何ら違法ではない。

なお本件異議訴願については原告主張の如く改正法によるべきものではなく旧法によるべきである。即ち本件議会解散請求手続開始の時期は原告らがその請求代表者となつて代表者証明書の交付の申請をした昭和二十五年五月六日であるから本件については昭和二十五年法律第百四十三号(改正法)附則第十項の委任規定による同年政令第百十九号附則第三項の規定に基き旧法によつてその手続をしたのである。また被告県委員会に対する原告の訴願についても旧法で取扱うべきものであり従つて被告も旧法によつてこれを処理した次第である。なお本件解散請求者署名簿の署名に関し何人からも村委員会に対し異議の申立がなかつたことは認めると述べた。

三、理  由

原告主張の各年月日に原告主張の如く古宮村議会解散請求に関する各手続がなされ且つ右村議会解散賛否投票の効力に関し異議並びに訴願の申立がありこれに対しその主張の如き決定並びに裁決のなされたことはいずれも当事者間に争がない。

そこでまず右異議並びに訴願に対する処理は昭和二十五年五月四日法律第百四十三号地方自治法の一部を改正する法律(改正法と略称する)によるべきか、はたまた右改正前の地方自治法(旧法と略称する)によるべきかについて考えてみよう。改正法附則第九項には改正後の地方自治法第二百五十五条の二に規定する争訟でこの法律施行の際現に裁判所にかかつているものは同条の規定にかかわらず従前の例によると規定せられてあるが右以外直接請求に関する争訟について何らの経過規定が存しないから改正法の施行時たる昭和二十五年五月十五日当時現実に裁判所にかゝつていない争訟については改正法によつて処理せらるべきものといわなければならない而して本件争訟が右昭和二十五年五月十五日当時には未だ裁判所にかかつていなかつたことは当裁判所に顕著なところであるからそれは改正法によつて処理せらるべきであり、しかも改正法においては普通地方公共団体における直接請求にあつてはその署名簿の署名の効力に関する争訟と賛否投票の効力に関する争訟とは切然区別せられ署名簿の署名に関し何人からも異議を申立てずして賛否の投票が施行せられ投票の結果が実現せられた場合には賛否投票の効力に関する争訟においてはもはや署名簿の効力を争い得ず従つて署名簿の署名の効力を言為して賛否投票の効力如何と判定するが如きは許されないものなることは改正法第五章第七十四条以下並びに同法第二百五十五条の二の各規定及び同法第八十五条によつて準用せられる公職選挙法中普通地方公共団体の選挙に関する関係規定に照し蓋し明かであるといわなければならない。

翻つて本件についてみるに古宮村議会の解散を請求するため原告らがその請求代表者となつて昭和二十五年五月六日解散請求代表者証明書の交付を村委員会に申請してその証明書の交付を受け次いで法定数の選挙有権者の連署を得て同年六月三日右解散請求者署名簿を村委員会に提出して同委員会の確認証明(署名簿に署名押印した者が同村選挙人名簿に記載されて居る者なることの証明)を受け同日右確認証明書と署名簿を添えて村議会解散請求書を村委員会に提出し、村委員会は請求の要旨等所定事項を告示し且つこれを公表する等法定の手続を了したがその間署名簿の署名に関しては何人からも異議の申立はなく同年九月七日村委員会は村議会解散賛否の投票を執行しその結果原告主張の如く議会解散を可とする投票が過半数を占めたこと、同年九月二十日訴外柿本忠平より右議会解散賛否投票の効力に関し解散請求者署名簿中自署にあらざる者ありこれを控除すれば署名者の数が法定数に達しないから無効なりとして村委員会に対し異議を申立てこれに対し村委員会は同年九月二十八日その異議を認容し右議会解散賛否投票は無効であると決定したこと原告はこの決定を違法なりとして同年十月七日被告県委員会に対し訴願したところ被告も右解散請求者署名簿に連署した者の中三十八名自署にあらざる者存在するが故にこれを控除すれば署名者の数が法定数に達しないから議会解散賛否投票は無効であるとして同年十一月二十七日前記村委員会の決定を維持し訴願人の請求棄却の裁決をしその裁決書が同年十一月三十日原告に交付されたことは前記の如くいずれも当事者間に争のないところである。されば右異議訴願の申立並びにこれに対する決定並びに裁決はいずれも改正法によつてなされなければならないのに(異議訴願も地方自治法にいわゆる争訟に属することは勿論である)村委員会並びに被告県委員会は改正法によらず旧法によつてこれを処理し議会解散賛否投票の効果に関する争訟において解散請求者の署名簿の署名の効力を云為し前記の如き決定並びに裁決をしたのは違法であるといわなければならない。

被告は本件議会解散請求についてはその手続並びに争訟とも改正法附則第十項従つて昭和二十五年政令第百十九号附則第三項の規定に基き旧法によつて処理さるべきであると主張するけれども右政令附則第三項は改正法及び右政令施行の際現にその手続を開始している直接請求についてはその手続その他執行は旧法によつてするという趣旨であつてこのことは右改正法附則第十項に「この法律の実施のための手続その他その執行について必要な事項は政令で定める」とありこれに基いて右の政令附則が定められたことに徴して明かである。従つて争訟についてはこの規定は何ら関係なきものといわなければならない。

以上説明したところにより前掲被告のした訴願棄却の裁決並びに村委員会のした決定はいずれも違法であるといわざるを得ないから爾余の点については判断を省略して右裁決並びに決定を取消すべきものとし訴訟費用につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 前田寛 近藤健蔵 萩原敏一)

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